Vol.3 No.326 成長分野における高機能フィラーの開発動向
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≪市場参入が増えているフィラーは低誘電中空粒子≫
【要求機能とフィラーの種類】
放熱を目的とした熱伝導性フィラーは比較的新しいフィラーであるが、低誘電性フィラーが本格的に市場投入されたのは
2020年頃であり、機能性フィラーの中でも最新のフィラーであるといえる。5G通信や車載ミリ波レーダなどの高周波通信では
回路基板の伝送損失が大きくなり、特に誘電損失が大きく影響している。誘電損失による伝送損失の発生量は基板の材料に
よって異なり、誘電正接が低いほど伝送損失が小さくなる。また、基板材料の比誘電率が低いほど信号遅延が小さいため、
高周波向け回路基板では誘電正接と比誘電率の低い材料が求められる。このほか材料の吸水率が高いと誘電正接が上昇するため、
吸水率の低いことも必要である。このような要求特性に対して、リジッド基板ではPTFEや変性PPE、フレキシブル基板ではLCPや
PIなど、低誘電の樹脂が用いられている。しかし樹脂は比誘電率が低いものの、一般に誘電正接が高い。これに対してセラミックは、
比誘電率は高いが、誘電正接が低く、かつ基板に必要な高い熱伝導率や低い熱膨張率を有している。このため樹脂に低誘電正接の
セラミックを添加したコンポジット材料の応用が進められており、フィラーとして溶融シリカ、窒化ホウ素、中空粒子(シリカ、
ガラス、樹脂)、ガラス繊維などが用いられている。中空粒子は比誘電率の低い空気を含有しており、空気の比誘電率は1.0と非常
に低い。中空粒子は空気の低い比誘電率を利用したもので、同じ材料の中実粒子より低い誘電特性が得られる。最近は中空粒子による
フィラー市場への参入が増えており、粒子の材料も多様化しつつある。高周波領域では誘電特性の低い材料が求められるが、比誘電率が
高くなれば材料の静電容量が大きくなるため、高誘電率の材料を用いれば同じ静電容量で部品を小型化することができる。このため
回路基板の小型化を目的に、比誘電率の高いチタン酸バリウムの応用が検討されている。